本研究科の古山歩研究員と本センターの教授である吉岡基,技術補佐員である神田育子による共著論文が,学術誌 漂着物学会誌に掲載されました!
三重県志摩市に漂着したコマッコウ Kogia breviceps の調査所見および胃内容物の記録
(Stranding record and stomach contents of a pygmy sperm whale Kogia
breviceps in Sima, Mie, central Japan)
2018年7月,三重県志摩市の海岸にコマッコウ科の鯨類が死体で漂着しました.鯨類が死んでしまうことはとても残念なことですが,その一方で,普段間近に観察することができない鯨類を詳しく調べることができる貴重な機会でもあります.コマッコウ科鯨類の漂着は三重県では珍しいため,調査を行いました.
コマッコウ科は,コマッコウKogia brevicepsとオガワコマッコウK. simaの2種で構成されるハクジラのグループの一つです.私たちは,まず,今回の漂着個体がどちらなのか,種の同定を行いました.コマッコウ科の2種は体長に対する背びれの大きさなどが異なり,外部形態から比較的簡単に種同定が可能であることが知られています.しかしながら,この漂着個体は腐敗が非常に進んでおり,背びれなどの種同定可能な部位が欠損・損傷していました.そこで骨格標本を作製し,頭骨の観察から種を同定することにしました.頭骨の形態において,上顎先端が細く尖ることや下顎結合部が長いことなどから,漂着個体はコマッコウであることがわかりました.この個体は体長200.8 cmのメス個体でした.コマッコウのメスの性成熟体長は約270 cmであるという知見から,このメスはまだ幼若な個体であると考えられました.
次に,採取した胃の中に入っていた未消化の餌を観察し,何を食べていたのかを調べました.胃内には,79個体のイカのくちばしが入っており,くちばしの形から 57個体がホタルイカモドキのものであることがわかりました.台湾での研究において,ホタルイカモドキはコマッコウの主要な餌生物であることが報告されています.もしかしたら,日本の周辺に生息するコマッコウもホタルイカモドキをよく摂餌しているのかもしれません.しかし,餌生物は摂餌の際の周辺環境や周りにいる生物によって変わるため,1個体の結果だけでは種全体の食性を反映しているとは言えません.コマッコウの食性をより詳しく理解するためにも,今後も漂着個体の調査を継続し,データを蓄積していく必要があります.
写真:志摩市の海岸に漂着したコマッコウ(上)と頭骨(左下)および下顎骨(右下)
論文:古山歩,神田育子,吉岡基.2021.三重県志摩市に漂着したコマッコウ Kogia breviceps の調査所見および胃内容物の記録.漂着物学会誌,19: 20-22.