本センターの准教授である船坂徳子が大学院博士前期課程の学生として指導した,橋田佳央梨らによる共著論文が,学会誌日本水産学会誌に掲載されました!

  

鯨類追込網漁業により得られた発見記録からみた秋季および冬季の熊野灘南部海域における鯨類の来遊状況

(Cetacean fauna and occurrence pattern in the southern Kumano-nada, Pacific coast of western Japan during fall and winter from sighting record obtained by dolphin drive fishery.)

 

 

三重県大王崎から和歌山県潮岬にかけて面する海域は,熊野灘と呼ばれています.熊野灘は近くを黒潮が流れる豊かな漁場であり,ホエールウォッチングやいるか漁などの,鯨類を対象とした産業も盛んに行われています.しかし,熊野灘にどのような鯨類が来遊してくるのかをまとめた研究はこれまでにありませんでした.そこで本研究では,和歌山県太地町で秋から冬に行われている鯨類追込網漁業に携わる漁師さんたちが漁の操業中に記録されていた30年以上の発見記録を借用し,熊野灘南部海域の鯨類の来遊状況を調べ,①鯨類相,②来遊時季,③来遊と黒潮の関係性,④混群形成(別種の鯨類が一緒に群れをつくること)の4つの項目を解析しました.

 

データを集計すると,31年間で22種の鯨類の発見が記録されていました.これは日本近海に生息するとされる約40種の鯨類のうちの半数以上に及びます.その中には絶滅危惧種に指定されているマッコウクジラ,セミクジラ,ナガスクジラ,コククジラ(西部太平洋個体群)などの鯨類も確認されたことから,熊野灘は多くの鯨類にとって重要な生息海域であると考えられます.また,発見が多かった13種について,秋冬における主要な来遊時季を推定しました.そのうち9種(シャチ,コビレゴンドウ,オキゴンドウ,カズハゴンドウ,ユメゴンドウ,サラワクイルカ,マダライルカ,スジイルカ,カマイルカ)の発見には来遊に季節性がみられ,そのほかの4種(マッコウクジラ,ハナゴンドウ,ハンドウイルカ,シワハイルカ)には季節性はみられず秋冬を通じて一定の発見がありました.コビレゴンドウとマダライルカの2種は,黒潮の蛇行によって発見率が減少する傾向がみられ,この2種の来遊は特に黒潮との関係が強いことが示唆されました.混群形成に関しては,オキゴンドウとサラワクイルカは全発見のうち半数以上が他の鯨類と混群で発見され,他海域における先行研究と同様に,大きな群れを作ることによって,シャチや大型のサメ類などの捕食者から身を守る働きがある可能性が考えられます.

 

継続的に蓄積された発見記録はとても貴重なデータで,野生鯨類の分布や回遊経路,生態などを知るための重要な手がかりとなります.今後さらに情報を蓄積することで,海洋環境の長期的な変化による来遊状況の変化なども解明できると考えられます.

 

写真:熊野灘への来遊が確認された鯨類;マッコウクジラ(左上),ハンドウイルカ(右上),カズハゴンドウ(左下),スジイルカ(右下)(撮影:有薗幸子)

 

論文:橋田佳央梨,船坂徳子,前田ひかり,貝良文,吉岡基.2023.鯨類追込網漁業により得られた発見記録からみた秋季および冬季の熊野灘南部海域における鯨類の来遊状況.日本水産学会誌,89(2):102-114.